前回更新してからひと月以上がたってしまいました。桜の話をしていたと思ったら、もう梅雨入りはいつかなと心配するような季節になっています。でもこんな風に季節の移り変わりを肌で感じることができることが、生きていることだなあ、冬はつらいけどそれでも日本人に生まれてよかったなあとしみじみ感じるこのごろです。
前回までで、がん薬物療法専門医の試験を受けるために必要な、認定施設での研修の準備がなんとか整ったお話をしました。島根大学大学院の腫瘍専門医育成インテンシブコースにはいり、島根大学病院で研修を受ける用意が整いました。また奥出雲病院の留守を後輩のY先生に託し、また看護師をはじめ様々な方にお願いして研修が始まりました。2008年4月から開始した大学院のコースは、最初の1年間は主として講義、講演に参加することで過ぎて行きました。
2009年4月から島根大学病院で研修が始まってからがたいへんでした。週3日島根大学病院に通い、週2日奥出雲病院で外来、手術、当直をこなすという生活が始まったのです。研修では、広い範囲のがん診療を学ばなければならないと定められており、私は呼吸器、造血器、消化器、肝胆膵、乳房のがんをそれぞれ研修することとしました。幸いにも私の出身医局は島根大学の消化器総合外科であり、ここでは消化器、肝胆膵、乳房の手術と化学療法を扱っていたため、これらの分野は自分の出身医局で研修することができました。呼吸器と造血器は、それぞれの科で研修することになりました。
呼吸器は、大学院のコースで私の指導教官であるI教授をはじめとして、呼吸器化学療法内科のスタッフの先生方にお世話になりました。なんといっても肺がんの患者さんをみるのは初めてです。私が医師になった頃は現在のような臨床研修制度はなく、直接消化器外科の医局に入っているので仕方ないのですが。さらに、肺がんの治療、特に化学療法もこの20年の間に飛躍的に進歩しています。投与される薬剤もまったく変わっていました。
造血器は血液内科で研修させていただきました。造血器のがんというのは白血病やリンパ腫などです。この分野はこの20年ほどで遺伝子レベルで発がんの原因解明が目覚ましく進みました。それに従って白血病の分類も細分化が進み、また治療薬も新しいものがどんどん取り入れられていました。そこに20数年ぶりに迷い込んだ私は、まさしく「浦島太郎」の心持ちでした。
呼吸器化学療法内科、血液内科ともに、I教授以外のスタッフは全員私よりお若いことが印象に残りました。いつの間にか自分も年齢を重ねてきたんだなあと実感するとともに、若い先生方が人生のかなりの部分を医学・医療に捧げ研鑽に励んでいる姿を拝見して、久しぶりに自分の気持ちにも強い刺激を受けました。そのおかげで、奥出雲病院に帰ってからの診療も再び新鮮な気持ち取り組むことができるようになったと感じています。このような刺激を受けたことは単に研修を受けるという以上の、貴重な副産物でした。
いよいよ隠岐ウルトラマラソンの本番が近づいてきました。通常は週2回程度、最近完成した奥出雲病院の近くの尾原ダム周囲の道路を15kmくらい走っています。ここは車も少なく景色もよくて、とても気持ちいいコースです。先日テニスの試合で浜田に行ってきました。帰りは中国縦貫道経由でしたが、帰り道にあるループ橋「おろちループ」(断崖絶壁に作られたループ状の橋からなる道路です)の駐車場に車を止めて、西城方面へ1時間ほど走って降り、また駐車場まで走って上がるランニングをしました。普段は車でしか通ることのない道を足で走ってみるのはとても面白く気持ちのいい体験です。次回は、隠岐マラソンの結果をご報告できると思います。
2012年6月6日 奥出雲病院 外科 鈴木賢二