2010年11月27日。第6回がん薬物療法専門医資格認定試験当日です。この日から2日間、東京・神田で試験が行われました。前日から東京に入りホテルにチェックインし、ドキドキそわそわしながら初日を待ちました。

 初日は筆記試験。午前120分、午後120分、合計100問に答えるという質、量ともにかなりのものでした。内容は、総論(がんの生物学的性質、遺伝子異常、研究方法などについて)と、各論(肺癌、胃癌など各臓器のがんの治療方法などについて)があります。試験が始まり、問題用紙をめくってみると、総論のなんと難しいこと! 見たこともない用語が並び(覚えていないだけかもしれない・・・)答えの手がかりすらなく、途方に暮れて本当に「鉛筆でも転がすしかないのか」と思いながら何問も何問も問題が過ぎてゆきました。各論は臓器ごとのがんの治療の内容で、ある程度予想できる内容だったのでそれなりに答えることができたと思います。一方で自分の専門分野(消化器癌)は、当然ながらある程度の知識はありますので、冷静に解答することができました。それでも計240分を緊張の中難しい問題に向き会わなければならなかったのでかなり疲れました。また、数ヶ月前に発表された論文によって新たに標準治療となったことが、もう出題されていることには驚きました。

 その日の帰り、スターバックスに寄ってコーヒーでも飲みながら一息つこうと思ったら、私より少し若い年代の男性が5-6人入ってきました。なんか見たことがある雰囲気です。案の定、臨床腫瘍学のテキストを取り出して終わったばかりの試験の検討を始めるではありませんか。私と同じ、受験生のグループです。そうして皆口々に、「○○○は、×××だよね、当然。」などとしゃべりだし、ああやっぱり自分はそんなにできなかったのかとがっくりうなだれてさびしくスターバックスを後にしました。

 翌日は口頭試問です。これは、面接官2−3人に対し受験生が一人30分間、提出した症例のうち1-2例について質疑を受けるというものです。当日会場に到着すると、受付をした後受験生は一つの部屋で待たされます。待っている間は緊張するもので、しーんとした部屋の中、本をめくるぱらぱらという音と咳払いだけが響き時間が過ぎてゆきます。そのあと呼び出され、いよいよかという気分で口頭試問会場へ入りました。

 私の場合、質問されたのは肺癌の症例でした。治療法選択の理由や、副作用対策、今後の治療の方針などにつきかなり細かいところまで突っ込んだ質問を受けましたが、おおむねきちんと答えることができたように思います。ここでも数ヶ月前に新しくでた標準治療について聞かれましたが、最新の治療方法を聞かれることは予想していたので、ここは待ってましたとばかり得意そうに答えました。一方で、副作用対策としてある種の吐き気止めを併用した場合、投与量はどうするのかという質問には、「減量します。」とアホのような答えをして、どのくらい減量するのかと畳み掛けられ、「うっ。。。」と詰まっていたら、こいつは答えられないと思ったもう一人の面接官が、「××の場合は、50%に減量するんですよね」と助け舟を出してくださり、「そ、そうです、そうです。」といい加減な答えをしてしまいました。

 そのように苦い思いもあった試験も終わり、ホテルに帰りました。夕食はホテルのレストランで、一人で祝杯(苦杯?)をあげました。終わった感触は、はっきり言って筆記試験は合格ラインに達していないだろうなというものでした。残念な感触ではありましたが、はじめから数えると約3年にわたる勉強が(ひとまず)終わった開放感と喜びの方が大きかったのを覚えています。

 さていよいよ、次回は試験の結果発表と現在までの状況をお話しします。

  今年の6月に島根県隠岐の島で開かれる100kmウルトラマラソンにエントリーしました。時間ができればコツコツと走っています。最近では休日には20km位を走ります。悩みの種は平日になかなか走る時間が取れないことです。それでも走ると仕事のことも忘れて自分の体と走っている周囲の自然とが溶け合って、私自身が、自分の体と周囲の自然と対話しているような、そんな気分になるから不思議です。

 

2013年3月14日 奥出雲病院 外科 鈴木賢二