めっきり秋らしくなり、なにやら冬の到来の予感が見え隠れする、そんな季節になりました。秋から冬へ向かってゆく季節には寂しいものがありますが、これが日本に生まれて自然を感じながら生きてゆくことの幸せなのだろうなと感じるこのごろです。
2011年1月にがん薬物療法専門医の認定試験に合格し、同年4月1日付けで専門医に正式に認定されました。多くの方々に支えられここまで来ることができました。まず、研修や試験などで病院を離れている間にご迷惑をおかけし、また協力していただいた奥出雲病院の先生がた。不在を守り応援していただいた看護師さんやスタッフのみなさん。島根大学病院での研修でご指導いただいた磯部教授をはじめとして呼吸器内科、血液内科の先生がた。これらの皆様のご指導、援助、励ましがなければ到底なし得なかったと心から感じています。また自分に対しても肉体的、精神的に大きな負担がかかり、体重が減ったり体調を崩したりもしましたがなんとか乗り越えることができました。
私が奥出雲病院につとめる外科医、その中でも消化器外科の専門医として二つ目の専門資格であるがん薬物療法専門医になったことには少なからぬ意味があったと感じています。
ひとつめは、この資格は多くは内科医が取得する資格である中で外科医が取得したこと。学会の発表ではがん薬物療法専門医のうち外科系の医師は10%とのことであり少数派です。しかしがんの治療、とくに消化器癌の治療の一つの柱は手術です。がんの手術を行う外科医が抗がん剤治療も専門医として行えることはがん患者さんを外科医としての視点だけに偏ることなく広い目で診療できることにつながります。人間とはとかく自分の得意な分野で勝負をしたいもの。それがいい方向に働く場合は問題ないのですが、自分の土俵にこだわるあまり、より良い方法に目が行かず患者さんに不利益となる場合がないとは言えません。外科医が手術の効果を過信するあまり抗がん剤治療の効果や手術のデメリットから目を背けることは避けなければいけません。様々な治療の効果、利点、欠点をより総合的に判断できることが、二つの専門を持つことの意義だと感じています。
もうひとつは、奥出雲病院で取得したということです。現在がん薬物療法専門医のほとんどは、大病院に勤務しています。地域の病院でも大病院や都会の診療レベルに負けない治療を提供できることは大きなメリットです。多くの方に支えられて勉強してきた内容を奥出雲町の患者さんに還元してゆけることを心からの喜びとして今後も診療を続けてゆきます。この資格を得たのちも満足することなく知識、技術の習得を地道に続けて、がん薬物療法の最前線の内容を患者さんに提供してゆくようにいたします。
また、先月にはとても嬉しい出来事がありました。当院の岡本薬剤師が、日本病院薬剤師会のがん薬物療法認定薬剤師の試験に合格し、認定されたことです。いままでも抗がん剤治療では薬剤師に多くの力を発揮してもらってきましたが、薬剤師のがん薬物療法分野での専門資格を取得したことでさらに高度の治療をすすめてゆけると楽しみにしています。
最後に、医師は常に謙虚に勉強し続けるべき職業であることを態度で、背中で教えていただき、私を強力に後押ししていただいた現奥出雲病院名誉院長の春日正己先生に心から感謝いたします。
さて、大分前の話になってしまいましたが、6月の隠岐の島ウルトラマラソンはどうなったのでしょうか? このブログの更新がここまで遅くなったということは・・・。そうです、残念ながら途中リタイアとなりました。
昨年は50kmの部に出場して比較的楽に完走できたことから、100kmもわりといけるんじゃない?と比較的気楽に参加した今年のウルトラマラソン。しかし、そんな簡単な生易しいものではありませんでした。35 kmくらいまでは比較的順調にすすんだものの50 km手前でどうにも両側の太ももが痛くなりスピードががくんと落ちて、50kmでしばらく休憩してから走り出しました。なんとか走り続けましたが、いったん落ちたスピードはあがりません。苦しみながら走り続けましたが最終的には70km手前の関門で制限時間をクリアできず、リタイアとなってしまいました。リタイアの瞬間は苦しさと悔しさと、それからこれでもう走らなくてもいいという妙に晴れ晴れした気持ちが少し混じった奇妙な感覚でした。しかし今は、来年こそは、と狙っているところです。
2年以上にわたりこのブログを本当にぽつりぽつりと書いてきました。これを読んでおられる方が患者さんなのか、そのご家族なのか、市民町民の方か、同業者か、また医療スタッフかはわかりませんが、いつかどこかでお会いすることもあるかもしれません。一生会わないかもしれません。それでもこういう場でお互いの息づかいを感じることができたとしたならば、これ以上の喜びはありません。皆様の幸せをお祈りしています。ありがとうございました。
2013年11月5日 奥出雲病院 外科 鈴木賢二